【金融業界→スタートアップCFO】ファイナンスの経験を活かし医療の未来を変革する ー ファストドクターCFO中川修平の挑戦(後編)
こちらの記事は、ファストドクターのCFO中川さんのインタビュー後編です。(前編はこちら)
後編では今ファストドクターで取り組んでいることや、やりがいについて伺います。
金融×医療DXで実現する社会変革
ーーー スタートアップに来てからの詳細は、入社エントリー記事にも綴っていますよね。(参考:中川さん 入社エントリー)これまでの金融業界での経験が、どのように活きていると感じますか?
中川:前職では、新しいことへチャレンジもしたことによって、会社の目的に沿って最適な形での資本政策、財務戦略を実現してくることができました。具体的には、未上場ラウンドでは、海外機関投資家がリードする資金調達という当時は前例のなかった取り組みや、IPOでは、親引けによるコーナーストーン投資と旧臨時報告書方式で過半数を海外投資家への販売という、日本初となるスキームを導入することができましたが、これも今振り返れば、証券会社時代に培ってきた経験が活きたと思います。
例えばIPOにおける海外投資家への販売を増やす検討の中で、旧臨時報告書方式と呼ばれる、ある意味で略式でのグローバルなオファリングを進めていました。当時、主幹事証券会社3社から「従来、当局は、当該方式において過半数を海外に販売することを認めて来なかった。経験則的に難しい。」という共通の意見を受けたことがあります。しかし、法律では禁じられていないうえ、当局が懸念する投資家保護のポイントは別途担保できている状態でした。それでも反対されるのは、「業界の慣行に合わないだけなのではないか」と、挑戦に値すると考えました。当時の資本市場の潮流や金融当局の考え方の変化を読み取ると、今なら新スキームが受け入れられるはずだ、と睨んだのです。
そこで証券会社3社に対し、「いま、これを推進できれば、日本のスタートアップファイナンスに新たな選択肢と大きな変化をもたらすことができます。変えられるか否かは、ここにいる私たち全員が今動くかにかかってます。ここで私の説得に時間をかけるくらいなら、当局の説得に時間を使ってください。」と訴えました。
少し大袈裟かもしれませんが、大義をもって正面から踏み切ったことが功を奏したと思います。その後、主幹事証券が真剣に弁護士や当局と議論を積み重ねてくれて、結果的に承認を得て新しいスキームを実現することができたのです。
ーーー ファストドクターに入られてこの2年半ではCFOとしての役割だけでなく、事業部の管掌もしてこられましたよね。
中川:そうですね。シードフェーズを終えたばかりの事業をプロダクトマーケットフィット(PMF)させ、グロースフェーズへ成長させたり、市場選定や構想段階からゼロイチで作ったりと、この2年半に、事業責任者と一緒になって複数の事業の立ち上げをしてきました。
その中でも、ファイナンスの経験は非常に役立ったと思います。たとえば、セールスやマーケティング投資においては、LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)のバランスを判断する際も単に「合っているか」を見るだけではなく、事業の構造に応じた適正水準を見極める必要があります。具体的には、売上と費用の構造を特定してキャッシュフローを推定することや、当社や当該事業の資本コストを把握することで、投資判断の精度を高めることができます。
たとえばマーケティングコストだけでなく、テクノロジーや、オペレーション改善といった固定費投資においても、事業への投資対効果を比較しながら施策の優先順位をファイナンス視点で決定してきました。事業のNPV(正味現在価値)やIRR(内部収益率)を比較し、追加投資やそれを大きく加速する意思決定をします。もちろんすべてが成功したわけではなく、残念ながら、撤退の判断をした事業も複数ありました。しかし顧客の需要の変化や、施策の仮説検証状況、競争環境といったさまざまな要素を考慮しながら、ファイナンスという視点が、事業の進退という大きな決断において客観的な判断材料になったと考えます。
その上で、CFOとして、全社の各事業への資本配賦を差配し、投資に対するキャッシュフローの創出力の成長や企業価値向上を目指した投資対効果の観点から、全社戦略や投資戦略の議論を牽引するほか、全社的なファイナンスリテラシーの向上にも注力しています。また、M&Aを活用して全社および事業戦略の基盤を構築・補完する取り組みによって、社会や顧客への新たな価値創造を推進しており、非常に大きな介在価値を感じています。
ーーー 資本市場で経験を積んだ方にとって、ファストドクターでのやりがいとは何でしょうか。
中川:医療業界は非常にフラグメントな市場であり、資本市場で可能なことと比較すると、まだまだ大きな乖離があります。たとえば、業務の効率化を見据えた長期投資をするにも、医療機関は資金調達の手段が限られているのが現状です。
そこへ、資本市場で培ってきた手法や考え方を少しずつでも導入していくことで、業界全体を変えていけると感じることは、大きなやりがいの一つです。特に医療業界は他業界以上に、資本市場や企業経営の経験を持つ人材が、いままさに必要とされているはずです。
世界でも類を見ない速さで高齢化が進む日本では今、医療業界は大きな転換点を迎えています。国民皆保険制度によって日本の医療は着実に発展してきましたが、その一方で社会保障費の増大や医療資源の偏在といった課題が顕在化しています。特に、現役世代の将来やこれから私たちの子ども世代が社会人になる頃には、この問題はさらに深刻化していくはずです。
医療は複数の大きな課題に直面していますが、それは同時に変革のチャンスでもあります。ファストドクターは、「生活者の不安と、医療者の負担をなくす」をミッションに、テクノロジーを活用しながら新しい発想のもと、従来の医療提供や受診行動に対して提案を行い、2040年に予測される医療需要のピークに備えています。
具体的には往診の効率化やオンライン診療の普及など、医療DXの実現に力を入れてきました。これによって全国の医療機関を支援し、効率を上げることで医療資源不足を補い、患者に医療を届けることができました。まだまだやれていないことが無数にあるので、患者と医療者の医療体験を向上するためのDX化を強く推進していきたいです。
また、顧客への付加価値を高めるため、M&Aを継続的に活用しています。直近では、高齢者への在宅医療提供を支援する事業とのシナジーが高い、医療事務を専門とするクラウドクリニック社をグループに迎え入れました。(参考)
医療機関への支援はファストドクターの注力領域であり、この統合により、当社の提供価値の幅が広がるだけでなくクラウドクリニック社の従来の顧客に対しても、ファストドクターの持つ機能を提供することが可能となり、付加価値が一層高まったと自負しています。今後も、企業規模の拡大を目指す買収ではなく、顧客への付加価値を拡大することで企業価値の向上を目指すM&Aに注力していきたいと考えています。
これとは別に、医療経営支援という新たな事業も立ち上げています。現在、多くの医療機関のオーナー医師が高齢で引退世代に差し掛かる中、後継者不足によって患者を抱えつつも廃業を余儀なくされるケースが増えています。他方で、若手医師の多くは経営経験がなく、また、多額の承継対価を個人で負担しきれないため、承継への関心が高くても断念することが少なくありません。
ファストドクターは、こうした課題に対して、ファイナンス面で外部資本によるレバレッジの活用やリスクアロケーションを支援することで、医療機関を承継することを支援しています。M&Aの支援だけでなく、マネジメントバイアウト(MBO)のスキームも活用しながら、ファストドクターとしても連続的な支援を通じて、プライベート投資におけるバイアウトファンドのマネジメント手法も活用しています。
さらに「経営は未経験」という医師の方々に対して、承継後の経営戦略や業務効率化、経営管理の支援をハンズオンで行い、医療経営を学びながら承継を進められるよう、サポートしています。
こうしたことは金融業界やコンサルティング業界の方々にとっては、一般的なことであり、得意な領域でもあると思います。
医療業界の経営や資本のありようを変革することで、将来、私たちの子ども世代が社会人になる頃にも持続可能な医療体制を維持できますし、無医地区などなど医療の偏在性を解消する一助にもなると期待しています。流動性と効率性の高い他業界で「当たり前」とされている考え方や仕組みを、医療業界に吹き込んでいく。このように業界の経営や資本のありようを「変革する」ことをファストドクターを通して実現していくことができます。
ーーー 最後にメッセージをお願いします
中川:現在、医療従事者、オペレーション、マーケティング、企画などのビジネス人材や、エンジニア、デザイナー、プロダクトマネジャーなどのテック人材など多職種のメンバーが協働して作ってきた、医療プロセスと体験の変革は成長途中であり、まだまだ続きます。
これからは、金融やコンサルティングのバックグラウンドを持つ方々の力も必要です。皆さんの経験と専門性を活かして、持続可能な医療の実現に向けて、制度改革やビジネスモデルの変革に一緒にに取り組んで欲しいと思っています。
中川さん、ありがとうございました。
さらに事業の詳細を知りたいと感じた方、医療業界にご興味をお持ちいただけた方、社会貢献性のある事業に携わりたいと思った方。まずはファストドクターの門を叩いてみてください。お待ちしております。